しゃっくりが68年止まらなかった男
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しゃっくりは、横隔膜が勝手に収縮して起こる。水を飲む、息を止める、誰かに驚かせてもらう——やり方は人それぞれだが、たいていは数分で収まり、長引いても丸一日もすれば忘れている程度のものだ。
ところが、アメリカの農夫チャールズ・オズボーンのしゃっくりは、68年間止まらなかった。
1922年、ネブラスカの農場。彼は食肉用に350ポンド(約160キロ)の豚を吊り上げようとして、そのまま転倒した。本人は痛みも違和感もなかったという。しかしその瞬間からしゃっくりが始まり、以後ほとんど途切れることなく続いた。後に医師が示した見立てはこうだ。脳の中でピンの先ほどの細い血管が破れ、しゃっくりを抑える働きをする脳幹のごく小さな部分が壊れた。つまり、しゃっくりを止めるブレーキそのものが失われてしまったのだ。ただし原因は今も確定していない。転倒で横隔膜を傷めたのではないか、脳卒中だったのではないか、という別の見方もある。
ペースは1分あたり20〜40回。昼も夜も関係なく続いたので、眠りも、固形物をゆっくり味わって食べる楽しみも奪われた。生涯の回数は推定4億回超。しゃっくりから解放された最長の記録は、たったの50時間だったという。
もちろん彼は治そうとした。責任を感じたらしい雇い主が、オマハでの特別な治療に彼を送り出してもいる。通ったのは4回。最初は効いたように見えたが、家に帰るたびにしゃっくりは再開した。ある医師は、一酸化炭素と酸素を吸わせて、彼のしゃっくりを本当に止めてみせた。ただし一酸化炭素は毒ガスである。吸い続ければ死ぬので、治療としては成立しない。
そこで彼が身につけたのは、治すことではなく音を消すことだった。しゃっくりの「ヒック」という音が出るのは、横隔膜ではない。声帯が急に閉じて鳴る音だ。彼はしゃっくりの合間に息を吸うコツを自力で覚え、音だけを消してしまった。晩年の知人によれば、1分に3〜4回、胸がヒクッと動くのが見えるだけで、声は一切しなかったという。彼は生活のほうも普通に送り切った。2度結婚し、8人の子をもうけ、農業を引退するまで働いている。そして1990年のある日、しゃっくりは始まったときと同じく突然止まった。96歳、亡くなる前年のことだった。
彼の友人の一人は、しゃっくりを驚かせて止めようと、彼の背後でショットガンを二連発ぶっ放したことがある。本人の感想はこうだ。「驚きはしたが、しゃっくりが驚いて出ていくことはなかった。」