1つの毛穴から毛が50本、ノミが住めないほど密な毛皮を持つ動物
ふわふわの動物と聞いて思い浮かぶのは、せいぜい「毛が多くてもこもこしている」という程度の感覚ではないだろうか。人間の頭部を思い浮かべてほしい。1つの毛穴から生えてくる髪の毛は、基本的に1本だけだ。多い人でもせいぜい2〜3本がまとまって生えてくる程度で、それ以上に毛穴の中で毛が枝分かれして増えることはまずない。哺乳類の毛皮も基本的な仕組みは同じで、毛が濃い動物というのは単に毛穴の数そのものが多いだけだろうと、なんとなく想像してしまう。
ところがチンチラの体では、この当たり前がまるごと通用しない。1つの毛穴から生えている毛の本数はおよそ50本にのぼるという。文献によっては最大60本、動物園の記録では平均80本という数字さえ紹介されており、人間の毛穴と比べると20倍から80倍もの毛が1つの穴からまとめて噴き出しているような密度だ。その結果、1平方センチメートルあたりの毛の本数は約2万本に達し、これは現存する陸生哺乳類の中で最も密度の高い毛皮とされている。指先で毛皮に触れると、細かな霧の中に手を沈めたような感触になるのも、この途方もない本数のおかげだろう。ヒトの頭部に生えている髪の毛は全部で10万本前後とされるが、チンチラの場合はその桁に迫る本数を、体のわずか数平方センチメートル分の毛穴だけで再現してしまう計算になる。
なぜここまで極端な密度になったのか。チンチラの原産地は南米アンデス山脈の標高の高い岩場で、昼夜の寒暖差が大きく、風を遮るものもほとんどない過酷な環境だ。体の表面積あたりの毛穴数を増やすのではなく、1つの毛穴が生産する毛の本数そのものを増やすことで、薄い皮膚のまま効率よく分厚い断熱層を作り出したと考えられている。少ない毛穴で最大限の保温効果を得るための、いわば省スペース設計の毛皮というわけだ。皮膚そのものを厚くする方向ではなく毛穴の生産性を上げる方向に進化した結果、チンチラの肌は見た目の毛量に反してとても薄く繊細だとも言われている。
この極端な密度は、防寒以外にも思わぬ効果をもたらした。毛と毛の隙間があまりに狭く詰まっているため、ノミやシラミといった外部寄生虫がそもそも皮膚まで潜り込む隙間を見つけられず、寄生されにくい体になっているのだ。加えて抜け毛によるフケの発生も少なく抑えられるとされ、清潔さの面でも他の毛皮動物と一線を画す。実際、ペットとして飼育されるチンチラは、他の小動物に比べてノミの被害に悩まされることがほとんどないとも言われる。チンチラにとって毛皮は、寒さから身を守る防寒着であると同時に、虫を寄せつけない天然の防虫ネットとしても機能しているというわけだ。
この分厚い毛皮は寄生虫対策だけでなく、捕食者から身を守る役割も担っているとされる。密で滑らかな毛は爪や牙が皮膚まで届きにくく、万が一つかまれても致命傷を避けて逃げるための時間を稼いでくれるのだという。