チンチラ、実は人間の難聴研究の「定番の実験動物」
音声を読み込めませんでした。少し待ってからもう一度どうぞ
チンチラと聞いて、どのような動物を思い浮かべるだろうか。アンデス山脈生まれの、灰色のふわふわした毛玉のような小動物——おおむね、そんなペットとしてのイメージではないだろうか。実際、ペットとしても大人気であり、その柔らかな毛並みは古くから毛皮産業の目当てにもなってきた。
ところが、そのイメージからは想像しにくい顔が、チンチラにはもうひとつある。なんと、人間の聴覚と難聴を調べる研究の世界で、チンチラは50年以上にわたって使われ続けてきた定番の実験動物なのだ。1960年代初頭の文献にまで遡る歴史があり、耳の研究における標準的なモデル動物としての地位を築いている。
では、なぜ数ある動物の中からチンチラが選ばれたのか。理由は、耳の作りが人間とよく似ているからである。耳の内部構造のサイズが人間と近く、聞き取れる音の周波数の範囲も人間にかなり近い。つまり、人間が聞いている世界とほぼ同じ音の世界を生きている動物なのだ。研究者にとっては、これ以上ないほど都合のいい「耳の代役」である。
そのうえチンチラには、性格の面でも大きな適性があった。穏やかで大人しいため、麻酔で眠らせずに起きたままの状態でも各種の測定に応じてくれる。さらに、人間の聴覚に関係する音を使った訓練もできる。耳の入り口から脳へ向かう神経まで、聴覚システムのあらゆる階層からデータを取れる——こうした条件が揃う動物は、そう多くはない。
人間と似ているのは、健康な耳の作りだけではない。チンチラは人間と同じように難聴にもなり、その症状は音が内耳へ届かなくなるタイプ、内耳や聴神経が傷つくタイプ、その両方が重なったタイプに分けられる。つまり、人間の病態をそのまま再現できるのだ。実際、内耳の骨に穴が開く病気について最初に検証されたのはチンチラであり、その研究が人間の治療法の確立につながった。今では、内耳の骨の裂け目を外科手術で修復できるようになっている。
そんな研究の主役たちのルーツは、たった11匹に遡る。1920年代初頭、チリで働いていたアメリカ人の鉱山技師が、当時各国政府によって保護されていたチンチラを特別な許可を得て本国へ持ち帰った。その11匹から繁殖が始まり、今日アメリカに数百あるチンチラ牧場へと広がったのである。ペットショップのチンチラも、研究室で人間の耳の代わりを務めるチンチラも、元を辿れば同じ小さな群れから来ているのだ。