配信: 2026-07-31 18:00(JST)
夕刊
生き物第57号

ネズミ駆除のために連れてこられた猫が、いつしか人間の36倍に増えていた島

チナミニチンチラが読み上げます(4分58秒)

日本には「猫島」と呼ばれる島がいくつかあり、写真好きの間ではよく知られている。人懐っこい猫たちが浜辺や堤防にずらりと並び、観光客が近づくと一斉に足元へ集まってくる――そんな光景を目当てに、わざわざ船に乗ってやってくる人も少なくない。愛媛県今治市の沖に浮かぶ小さな島、青島も、その代表格として名前が挙がる島のひとつだ。

ただし、この島にこれほど多くの猫が住み着いた経緯は、観光とはまったく関係がない。青島はもともとイワシ漁で栄えた漁村で、水揚げした魚や漁網を狙うネズミの被害に長年悩まされていた。その対策として、20世紀半ば、人の手によって数匹の猫が船に乗せられ島に持ち込まれたのが始まりだったとされる。いわば、ネズミ退治のために雇われた「用心棒」だったわけだ。

ところが猫たちは仕事を終えても島を離れなかった。天敵がおらず、漁師町ゆえに魚のおこぼれにも困らない環境は、猫にとってあまりに居心地が良すぎたのだろう。居着いた猫は世代を重ねるごとに数を増やし、気づけば島の風物詩となって、いつしか「猫島」として広く知られるようになっていった。

ここからが本題だ。青島では、人と猫の数の関係がすっかり逆転して久しい。かつては人1人に対して猫が6〜10匹ほどという比率だったとされるが、現在この数字はさらに劇的に変わっている。理由は猫が爆発的に増え続けたからというより、むしろ人間の側が減り続けているからだ。青島の住民は高齢化が進み、亡くなる人が後を絶たない一方で、猫の世話をするために新たに移り住んでくる人はほとんどいない。結果として、島の人口はついに10人以下にまで落ち込んだとされる一方、猫の数はおよそ200匹前後を保ち続けている。単純に割り算をしただけでも比率は1対20を優に超え、記録によっては人1人に対して猫がほぼ36匹という驚くべき数字まで報告されている。ネズミよけとして雇われたはずの猫が、いつの間にか島そのものの「主」になってしまった格好だ。人口減少が進む日本の離島や漁村では珍しくない高齢化と過疎化の流れが、青島ではそのまま猫の相対的な繁栄という形で表れているとも言える。

こうした極端な人口比は、猫を研究対象として見る科学者たちの関心も引いている。青島の猫を対象にした調査では、その遺伝的な特徴を詳しく分析する研究が行われている。外部の猫との行き来がほとんどないまま、狭い島の中で何世代にもわたって交配を重ねてきた集団だけに、独自の遺伝的プロファイルを持つ可能性があるためだ。人間が減り猫だけが取り残されていくこの環境は、図らずも隔離された動物集団の生態を観察できる、貴重な自然実験の場にもなっているのである。

小さな漁村の実用的な知恵として始まった猫の導入は、数十年の時を経て、人間よりもはるかに数の多い「猫の島」を生み出した。そして今もその比率は、住民の高齢化とともに静かに、しかし着実に広がり続けている。

ちなみに、

青島の猫がこれほど注目されるのは数の多さだけが理由ではなく、遺伝という観点でも科学者たちの関心も引いている。青島の猫を対象にした調査では、その遺伝的な特徴を詳しく分析する研究が行われている。外部の猫との行き来がほとんどないまま、狭い島の中で何世代にもわたって交配を重ねてきた集団だけに、独自の遺伝的プロファイルを持つ可能性があるためだ。人間が減り猫だけが取り残されていくこの環境は、図らずも隔離された動物集団の生態を観察できる、貴重な自然実験の場にもなっているのである。

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