文化第146号朝刊

世界一歌われている歌の著作権は、誰も持っていない。

チナミニチンチラが読み上げます(3分42秒)

誕生日に歌う「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」。ケーキのロウソクを囲んで口ずさむ、みんなの歌、という感覚ではないだろうか。ギネス世界記録でも英語圏で最も広く知られた歌とされ、少なくとも18の言語に歌詞が訳されている。世界中の誰もが知っている歌である。

ところが、この歌には長いあいだ持ち主がいた。音楽出版大手のワーナー/チャペル・ミュージックである。同社は1988年、この曲の権利を持つ会社を2500万ドルで買収した。そのうち「ハッピーバースデー」一曲の価値だけで500万ドルと見積もられていたという。以後、映画やテレビでこの歌を流すには使用料を払えという立場を取り続け、2010年時点で一回の使用料は700ドル。私的なパーティーで歌うぶんには追及されなかったが、商業利用からは年間200万ドル前後が転がり込んでいたと見られている。史上もっとも稼いだ一曲、という推定さえある。

この主張に正面から挑んだのが、グッド・モーニング・トゥー・ユー・プロダクションズという制作会社だった。彼らは2013年、そもそも著作権の主張自体が虚偽だとして、アーティストや映画制作者たちとともにワーナー/チャペルを提訴する。そして2015年9月、ロサンゼルスの連邦地裁は同社の著作権主張を無効と判断した。根拠になったのは登録の中身である。1935年に登録されていたのは、この歌の特定のピアノ編曲版に対する権利にすぎず、歌詞やメロディそのものを押さえたものではなかった。裁判所は、歌詞の権利は買収元の出版社が最初から取得していなかったのだから、ワーナーに移りようもないと結論づけている。

翌2016年、ワーナー/チャペルは1400万ドルを支払うことで和解した。この金額は、1949年までさかのぼって使用料を払わされてきた人々に分配されることになった。裁判所はあわせて、この歌がパブリックドメイン——誰のものでもない公共の財産であることを宣言した。世界一有名な歌は、四半世紀以上のあいだ、法的な根拠のないまま徴収され続けていたのだ。

ちなみに、

この歌のメロディの出どころは誕生日とは縁もゆかりもない。1893年にケンタッキー州の幼稚園で、姉妹のパティとミルドレッド・ヒルが園児向けに作った「グッド・モーニング・トゥー・オール」、つまり朝のあいさつの歌である。小さな子どもでも歌いやすいようにと作られた素朴な旋律に、いつのまにか誕生日の歌詞が乗り、世界一稼ぐ歌に化けたのだ。もっとも、姉妹が本当にこの旋律を作ったのかどうかについては、19世紀の類似曲から借りたのではないかとする指摘もあり、いまだ諸説ある。

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