生き物第177号夕刊

テッポウウオは、人間の顔を81%の精度で見分ける

チナミニチンチラが読み上げます(3分21秒)

人の顔を見分けるのは、脳にとってかなり難しい作業である。どの顔にも目が二つあり、その下に鼻と口がある。誰もが同じ部品を同じ配置で持っていて、人はそのわずかな差だけを頼りに他人を区別している。人間の脳にはこの作業を専門に担当する紡錘状回という領域があり、だからこそ顔の識別は、大きく複雑な脳を持つ霊長類だけに可能な芸当だと考えられてきた。

ところが、その専用の領域どころか、大脳新皮質そのものを持たない動物が人間の顔を見分けてみせたのだ。オックスフォード大学とクイーンズランド大学の研究チームが2016年に発表した実験の主役は、テッポウウオ。水面から口を突き出し、枝にとまった虫を水鉄砲で撃ち落とす熱帯魚だ。チームは水槽の上にモニターを置いて人間の顔の画像を二枚映し、片方に水を吹きかけたら餌がもらえるというルールを教え込んだ。正解に向かって水を吹く、解答方式のテストである。

顔を覚えさせたあと、その顔を、一度も見たことのない44人の新しい顔に紛れ込ませる。テッポウウオは平均81%の精度で、覚えたほうの顔を狙い撃ちした。

さらに興味深いのは、手がかりを削ったときの結果だ。輪郭や色、明るさをすべて揃えてしまえば、残るのは目鼻立ちの微妙な違いだけになる。難易度は上がったはずなのに、正答率は86%へ伸びたのである。

続く研究では、覚えた顔を30度、60度、90度と横に回して見せた。テッポウウオは角度がついても正解を選び、回すほど正答率は下がって、判断にも時間がかかるようになった。この傾けるほど鈍るという崩れ方は、人間や霊長類を対象にした顔認識の実験で見られるものと同じパターンだという。

テッポウウオには、人間の顔を覚えなければならない進化上の理由が何もない。それでもこれだけ見分けられるのなら、顔認識は生まれつきの専用回路に支えられた能力ではなく、経験によって身につく技能なのかもしれない。研究チームは、この結果が学習説を後押しするものだとしている。

ちなみに、

この実験のきっかけを作ったのは、魚による攻撃だった。筆頭著者のケイト・ニューポートは、研究室に入るたび飼っていたテッポウウオに狙撃され、この魚は自分の顔がわかっているのではないかと疑ったのだという。

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