食第178号朝刊

カニカマは「人工クラゲ」の失敗作だった

チナミニチンチラが読み上げます(3分54秒)

サラダにもお寿司にも入っていて、コンビニにも並んでいるカニカマ。カニの代用品として生まれた、よくできた模造品――というイメージではないだろうか。

ところが、あれはカニを真似ようとして作られたものではない。カニカマの正体は、まったく別の食材の模造に失敗した末の産物である。目指していたのは、クラゲだ。

1960年代後半、珍味業界に問題が起きていた。中華料理の珍味として使われるクラゲは中国からの輸入に頼っていたが、それが止まってしまったのだ。代替品が急がれるなか、珍味を得意としていた石川県七尾市の練り物メーカー・スギヨに、人工のクラゲを作れないかという依頼が舞い込んだ。

スギヨは研究所を設け、コンブ粉末から抽出したアルギン酸ナトリウムや卵白などを組み合わせて、クラゲのコリコリした食感の再現に成功する。だが、致命的な欠陥があった。調味料であえると溶けて、まったくの別物になってしまうのだ。クラゲは味を付けて食べるものなので、これでは商品にならない。しかも試行錯誤しているうちに、中国のクラゲ輸出が再開されてしまった。依頼の前提そのものが消えたのである。

諦めかけていたそのとき、試作品をたまたま刻んで食べてみた開発陣が、妙なことに気づく。繊維状にほぐれたその食感が、クラゲではなく、カニの脚の身にそっくりだったのだ。風味までカニに近い。クラゲとしては完全な失敗作が、頼まれてもいないカニになっていた。

ここで杉野芳人が出した答えが見事だった。溶けるのがアルギン酸のせいなら、本業のかまぼこで作ればいい。かまぼこなら味付けしても溶けない。人工クラゲの開発は中断され、会社は人工カニ肉へと舵を切る。そして1972年、世界初のカニ風味かまぼこ「かにあし」が発売された。

もっとも、市場の反応は冷ややかだった。築地に持ち込んでも「刻んだかまぼこなんて売れない」と、ほとんどの問屋が門前払い。取り扱ったのは、面白い着想だと言った1社だけだった。ところが売り出すと2カ月ほどで爆発的に売れ、増産が追いつかない。トラックが市場に着くと業者が奪い合うほどの人気になった。

カニカマはいま世界で年間60万トンほど消費されているといわれ、国別の消費量では1位フランス、2位スペインで、日本は3位。即席めん、レトルトカレーと並ぶ「戦後日本の食品三大発明」に数えられている。

ちなみに、

失敗作から生まれたこの食品は、その後「本物のカニを超える」ことを目標に進化を続け、2004年にはメスのズワイガニの脚を再現した高級カニカマ「香り箱」が登場した。コンビニが寿司の具材に採用するほどの出来だが、価格は12本入りで398円である。

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