生き物第219号朝刊

タコは一緒に狩りをする魚を殴る。得がなくても殴る

チナミニチンチラが読み上げます(3分16秒)

タコといえば、岩陰にひとり潜み、体の色を変えて獲物を待つ孤独なハンターだ。仲間と群れることすら少ない動物として、長いあいだ知られてきた。

ところが、実際のタコはそのイメージと大きく乖離している。紅海やオーストラリアのグレートバリアリーフでは、ワモンダコが数匹の魚とチームを組んで海底を回る姿が撮影されている。グループは一匹のタコに対し、魚が二匹から十匹ほど。魚の側にも役割の分担があり、ホウライヒメジのような魚は匂いと動きで砂や岩の隙間を探って獲物を見つける偵察役を担う。タコは魚が入れない岩の隙間に腕を突っ込んで獲物を追い出し、外で待っていた魚がそれを仕留める。進化の上では五億年以上も隔たった相手と、きちんと分業が成立しているのだ。

そして、この共闘には制裁がある。ワモンダコは腕を一本伸ばし、仕事をしない魚の頭を殴るのだ。白黒の体色を一瞬ひらめかせ、腕が伸び、仲間の頭に一撃が入る。殴られやすいのはアカハタのような待ち伏せ型の魚で、自分では獲物を探さず、群れの成果にただ便乗する種ほど標的になる。グループが動いて獲物を探しているあいだ、タコは誰も殴らない。みんなが止まって自分の周りに溜まり出すと、殴り始める。研究者の言葉を借りれば「群れが動いていれば、みんなハッピー」だ。

不思議なのは、ここからである。2021年に『Ecology』誌で最初に報告された八件の殴打のうち、少なくとも二件は、タコ自身が得られる食料的な見返りと結びつけられなかった。ライバルを餌から押しのけたわけでもなく、隠れた獲物に近づきやすくなったわけでもない。ただ、殴った。論文はこの行動に単一の説明を与えておらず、後でちゃんと働くよう仕向ける「罰」、働かない相手に付き合い続けるより安く済む行動制御、そしてもう一つ、自分に何の得もないまま相手にコストを負わせる「意地悪」に近いものまで、複数の可能性を並べている。2024年の大規模な観察でも、見返りのない一撃の説明はついていない。

ちなみに、

この行動を初めて目にした研究者は、笑いすぎてレギュレーターで喉を詰まらせそうになったという。海の底でタコのパンチを見てしまった人間の、最も正直な反応がそれだった。

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